「あれ、カヲル君、これ口紅?」

振り返ったカヲル君の背中、右の肩の当たりに赤と言うよりはオレンジに近い色が付いている。シャツが白いから目立ったけど、かすれた感じのそれは、そんなに大きな物ではなかった。

「え? 口紅?」

背中を見ようとするけどちょっと無理だと思う。
シャツを脱いでカヲル君が確認する。

「こんなのどこで付いたんだろう?」

ちょっと考え込んで、まいいかって言ってもう一度着る。

「普通に洗う前に、シミ落としみたいので軽く落とした方がいいよ」

僕がそういうとカヲル君は

「なんでシンジ君そんなことまで知ってるの?」

って聞いてくる。同居している人が人だからね、って言ったら納得されてしまった。うーん、ミサトさんってもうそういうイメージなんだなぁ。

「最近の口紅ってカップにも付かないって言うのに」
「でも思いっきり押しつけたりしたらやっぱり付くんじゃない?」
「そうなのかな。あ! そうかわかった」

何がって思ったら、ちょっと前に所属はわかんないけど女の人にぶつかられたらしい。

「顔がぶつかってとは思わなかった。向こうは大丈夫だったのかな」
「女の人はなんかマメにお化粧直してるから、大丈夫なんじゃない?」

そんなことを話していたら、シャツに口紅で浮気を疑われるってテンプレがあるんだ、って話になった。

「浮気相手の人がわざと奥さんに見せつけるために口紅つけて、それを指摘された男の人が“電車で女の人にぶつかられた”って言い訳をする、っていう、なんて言うのかな、典型的なパターンていうのがあったんだ」
「へぇ、それって背中?」
「えーっと、ううん、なんか胸元だったような・・・」
「それってそうやって指摘した時の態度で疑われるんだろう?」
「たぶんね、でも実際にそんなことあるのかなって思ってたんだ」
「口紅が付くっていうのはあったね」
「うん」

その時は特に何も考えずにそんな会話をしていたんだ。

家に帰って宿題を片付けながら、昼間の出来事をちょっと思い出す。
たぶん、カヲル君が言ってたことは本当なんだろうけど、もしネルフの女性職員に実は迫られたりしてるんだったらどうしよう、なんて馬鹿な妄想をしてしまう。
僕らチルドレン以外はみんな大人で、子供を相手にするかどうかはわからないけど、カヲル君だったらきれいだし優しいし、精神的には大人びてるところもあるから、もしかしたらそんな風に見てる人もいるのかもしれない。
カヲル君は僕を好きだと言ってくれるけど、女の人に興味はないのかな。
僕だって、女の人の、体って言っちゃうと即物的だけど、興味は、ある。カヲル君が好きだけど、それとは別に女の人を見てみたいとか触ってみたいとかは、正直思うし。ミサトさんでだいぶ幻滅したっていうか、現実っていうものを知ってしまったから、トウジとかとはちょーっと興味の度合いとかが違う気もするんだけど。

化粧した女の人はきれいだ。きれいにしようって気持ちが前面に出てるからかもしれないけど、ほんと別人だって思うこともある。ミサトさんなんかは「あれは戦闘服!」って言ったこともあったなぁ。
女の人が、それも大人の女の人が本気でカヲル君を落とそうと思ったら、敵わないんじゃないかな。
それがちょっと寂しい。

ふと。
以前ミサトさんに化粧されたことを思い出す。
赤い唇。

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