「ねぇシンちゃん。お化粧してあげよっか?」
酔っぱらったミサトさんに絡まれたら、おとなしくして逆らわない。そう学習していたけれど、この時はさすがにちょっと抵抗した。無駄だったけど。
嬉しそうにポーチを持ってきて「いいなぁ、肌きれい」とかなんとか良いながら、ファンデーション? とかを何重にも塗り、最後には口紅も塗られた。
「チューリップの赤よ」
ってどんな赤なんだろう? マスカラまで使われなかったのは僥倖なのかもしれない。
「へぇ、結構なもんじゃなぁい」
自分がした化粧にご満悦という顔でしげしげと眺めてくれる。
「シンちゃん将来美人になるわよ〜」
そんなこと言われても、男の僕には関係ないんだけどなぁ。
しばらくそのまま愚痴を聞かされたりして絡まれて、ようやく寝てくれた時には1時間近く経っていた。天井見上げてため息一つ吐いて立ち上がる。
とりあえずこの気持ちの悪い化粧を落とそうと洗面所に向かう。
当然だけど洗面所には鏡があって、まともに自分の顔を見てしまった。
確かにミサトさんの化粧テクはうまいのかもしれない。思っていたほど気持ち悪い感じではなかった。薄化粧って感じでもなくて、割としっかりした化粧に見える。自分が男だってわかってるから違和感はあるんだけど、これで髪が長くてそれっぽい格好をしたら女で通るかもしれない。
そんなことも頭の片隅で考えていたけれど、何より僕が目をやってしまったのは唇だった。
真っ赤ってほどでもないけれど、きれいな赤。ぺたっとして、つやっとして光を受けて弾いている。
なんだか妙にその色とか質感とか、そういうものに惹かれてしばらく眺めてしまう。
ハタと気付いて自嘲する。何考えてんだか僕は。化粧が似合うとか、女で通じそうってどう考えても欠点だろうに。
ばしゃばしゃと顔を洗う。
化粧ってやつは水洗いくらいじゃ取れないってことを失念していた僕は、どうやったら落ちるのかしばらく呆然とする羽目にもなった。ミサトさんがいつも使っているメイク落としってものがあることに気付けて良かったよ、本当。