脱衣所で服を脱ぎながら、ふと思い立ってからりと扉を開ける。
「ん?どうした?」
暇そうにしていた夫に
「ゲンちゃん、一緒に入らない?」
にこりと笑ってそう告げると見る間に真っ赤になった。くすくすと笑っていると、からかわれたとわかった夫が憮然とした口調で怒る。
昔、”ゆいゆい”って呼んで? と冗談で言ったことがある。そのときの反応もすごかった。
あんな風に赤くなって慌ててパニクる夫は今まで見た事はない。
こういう冗談にはいつまでたっても慣れてくれない。それはそれでからかい甲斐があって楽しいのだけれど、私としては本当に”ゲンちゃん、ユイユイ”なんて呼び合えるような仲になってみたいとも思うのだ。
まぁ、この人相手では絶対にムリだろうというのもわかっているのだけれど。
「ごめんなさい。でも本当に一緒に入らない?」
普段は忙しくて家でもなかなか夫婦二人で過ごせない。寝るのだってバラバラだし、お風呂なんてとてもムリ。
だからこそせめて、こんな時くらい夫婦らしくなんて思ってしまうのだ。
やっぱり駄目かなぁ、なんて思っていたら、大きなため息を一つ吐いて夫はゆっくりと立ちあがった。
言ってみるもんだわ、と思わず手招きなんてしてしまう。
「頭、洗ってあげますね」
そう言いながら浴衣を脱がせるとそっぽを向いて「いらん」なんて答える。
でもきっと黙って洗わせてくれるだろうってわかってる。それを想像して”ふふ”と笑う。
今はまだ仕事も忙しくてムリだけれど、そのうちに時間をかけてもっとらぶらぶな夫婦になろう、と決心しながら露天風呂への扉を開けた。