その後やっぱり碇君は僕と目を合わせようとせず、話し掛けてくることもほとんど無くなった。それでも使徒戦の時は連携が取れないわけではなく、それなりに気持ちを切り替えているようだった。
仕事さえ問題なくできるのであれば僕はそれで構わない。彼を強姦したことは後悔していないけれど、彼がパイロットを辞めるとか言い出したら面倒だとは思っていた。
炎天下の外での体育なんて僕やレイには拷問でしかない。僕らの身体はほとんど人間と変わらないけれど、微妙な所で調整ができない。体温のコントロールもそう。あとやはり色素が薄いというのは耐紫外線の意味でも問題だった。だから外を走るなんて時は必然、見学になる。
制服を着たまま木陰からぼんやりとクラスメイトを見ていた。木陰とはいえ暑さは厳しい。今日は特に蒸しているから、木陰でも正直辛いと感じていた。保健室に避難しようか。
汗を流しながら、疲れるだろうにそれでもくだらない会話をしつつ走っているクラスメイトの中、碇君が目に止まる。
そう言えばあの時も結構汗を流していたなぁと思ったら、そのままいろんな記憶が蘇ってしまった。
痛みをこらえる表情、洩れる声、ぬるつく口内、キツく締め付ける内側。
「またしたいな」と思って、その思考にびっくりする。レイ以外で「また」なんて思う奴はいなかったんだけど。
思い出すのは眉を寄せ苦しそうにしている表情。
あの時はほんとに無理矢理だったからただ堪えているだけだったけど、もしちゃんと気持ちよかったらどんな風に喘いでくれるんだろう。
あんあん言わせてみたいかも、とか考えながら碇君を見るようになってしまう。
我ながらひどいなと思うけれど、なんとかまたやらせてくれないだろうかと考える。
そんな風に思っていることは、レイにはやっぱりバレたみたいで「珍しいわね」と言われた。
それは碇君に嫉妬しているとかじゃなくてただ事実を述べただけの言葉で。
レイは碇君を気に入ってるみたいだから、もしかしたら止めろって言われるかなと思ったんだけど。
「あんまり碇君を傷つけないでね」
ちゃんと止めないと、傷つけなきゃいいんだって思っちゃうよ?
とりあえずは警戒を解いて貰わないと、と思ってレイがチェロを聴きに行くのについていくようにした。
最初は目に見えて顔を強張らせていたけれど、数回で表情には出なくなった。それが警戒を解かれたからなのかまではわからないけれど、次はできればあんまりひどいことはしたくなかったから、少しくらいは時間をかけようと思っていた。
その日は、女性陣が特殊実験(おそらく以前僕らがやった、スーツを着ないでの操縦試験だ)に呼ばれていなかった。僕は食事を一緒に、ついでにチェロを聞かせて欲しいと、彼の部屋を訪ねていた。
レイと一緒じゃないからか警戒していますって顔だったけれど、一人じゃ寂しいしとか言って強引に押したら入れてくれる。有り難いけど甘いなぁと思って部屋に入った。
今日どうしても事を進めたかったわけじゃないけど、チャンスと言えばチャンスだったし、なんかいいきっかけを作れないかなと思っていた僕は、手土産に缶入りのカクテルを持っていた。
食事の時にそれを出して「飲もう」と誘うと、碇君はジュースだと思っていたらしく、手にとって文字をみて目を丸くした。
「これアルコールじゃないか、僕らまだ未成年なんだよ?」
「ただのカクテルだよ? こんなのジュースじゃないか。カクテルだったら色々種類もあるし、君が気に入るのもあるかと思ってさ」
そんな風に丸め込んで、とりあえずほんとにジュースっぽく飲めるのを渡した。
二人で何本かを空ける。僕はしっかりと計算していて、最初はジュースっぽいものを、それからアルコール度数の高いものを渡す。空き缶も二人分を混ぜてしまい、どっちが何本飲んだかなんてわからないようにする。うまく誘導して碇君がたくさん飲むようにしたら、いい具合に酔っぱらってくれたみたいだった。赤い顔でいつもあまり見せないような笑顔を見せてくれる。
「だいぶ酔っぱらったみたいだね」
そういってソファに休ませる。肘掛けにもたれかかるようにしている横で僕はもう1本のプルを開ける。
「僕も飲みたい」
そういって僕に身を寄せてきたのをチャンスと、僕はカクテルを口に含むとそのまま碇君に口づけ、温んだ液体を流し込む。少し苦労してそれでも飲み下した碇君の口の中を舌で探る。前の時を思い出しながら、彼の気持ちのいい場所を刺激していく。
最初はびっくりはしたみたいだったけど、結局心地よさには勝てなかったらしく、碇君は素直に僕に口内を探らせてくれた。何度も舌を絡ませていると、そのうちに彼の方からもぎこちなくではあるものの舌を伸ばして来てくれる。
苦しいなりに息をしている碇君の鼻にかかる音がいい具合に刺激になって、僕も少しずつ興奮していた。
ゆっくりソファから床へと下ろしてキスを続けながら服をはだける。ズボンもゆるめて全て取り去って、また一口カクテルを飲ませる。合間にそうやってアルコールを足しながら、肌や体を唇と舌で味わう。まったく抵抗はなくてそのまま体中を探って、碇君が気持ちいいところを探す。こんな風に丁寧に扱うのはレイ以外では初めてだなと思いながら、それでも彼がぴくりと痙攣し、短く声を上げる様を見ているのは楽しかった。
お互いもう十分立ち上がっているのを確認して僕はちょっと離れる。以前来たときにオイル類の場所は確認していた。ちゃんと料理をするらしい碇君の部屋にはオリーブオイルもある。なんとなく、普通のサラダ油よりは良いような気がしてオリーブオイルを手に戻る。
全裸で床に横たわり四肢を投げ出して荒い息をしている碇君を見下ろしていると自然と笑みが浮かぶ。
軽く口付けてから片手で前をゆるく扱き、片手を後ろに伸ばす。ゆっくりとまず1本飲み込ませる。一瞬眉根を寄せたけど、それほどの拒絶は無い。そのままゆっくりとあちこち刺激しながら指を馴染ませた。それから2本、3本と指を増やす。もうずいぶん朦朧としているのか、3本を中で広げてみても痛みの声も拒絶もなかった。これならまあ大丈夫だろうと、指の変わりに僕のものを押し入れていく。
「う、あ、」
慣らしたつもりだけどやっぱり苦しいみたいで声をあげる。それでも以前のような拒否ではなく、全部を飲み込ませることができた。
無理やりの前回に比べれば締め付けは少し弱いように感じたけれど、それでも十分に狭いそこはひたりと僕のに添い気持ちいい。碇君は惚けていて僕を見ているようで見ていない。突けばごく自然に息が漏れて声になる。感じているかはわからないけれど、それなりに気持ちよさそうに聞こえる。
これはこれでいいかと、あとはもう自分の快楽が命じるままに抽出し揺すりあげた。碇君がイっているかは気にしないで、自分が出したいだけ彼の中に吐露した。
腕の中の体が身動ぎして、目が醒めた。ちょっと寝てたらしい。「あれ」なんて声を出しているのを聴いて、碇君の酔いも醒めたんだなとわかる。もう一度抱き寄せて腰をこすりつけるようにした。まだつながっているそこは、ダイレクトに彼を刺激したらしく喘ぎのような声を漏らす。
「え?」
短い疑問形に、碇君がほとんど覚えていないことを予想した。
「目が醒めたんだ」
そういって手で胸をなで首筋に唇を当てちろりとなめて吸い上げた。ぴくりと反応した体は、散々いじられた快楽を覚えているようで嬉しい。
「な、に」
「昨日、って言ってもまだそんなに経ってないけど、ほら、こうしてセックスしたの、覚えてない?」
もう一度腰を擦り付け、ゆるく突き上げる。
「ぅん、」
声を漏らしたあと、信じられないという表情で僕を振り返る。その顔に笑いかけて肩に唇を当てた。そのまま腰を支えてうつ伏せる。
「や!」
抵抗する間も与えずに押さえつけて抜けかけたものを押し込んだ。
「あぁっ」
すでにどこが弱いかはわかっているから、確実に体が気持ちいいように攻め立てる。
「う、や、あ、やめ、や」
拒否の言葉を吐こうとしても言葉にならない。感じているのは間違いのない事実で、そっと前に手を回すと立ち上がっているのがわかった。両手で腰を支えて高く上げさせて何度も穿つ。
「や、あ、いや、うっ」
声だけが零れる。中はそれまで僕が吐き出したものでぐちゃぐちゃだったから動きはスムースだった。ぐっと押し込めば奥まで簡単に届くし、浅く気持ちの良いところを刺激するのも簡単だった。そんなことを繰り返せばもう碇君には言葉を話す余裕はない。
「ほら、気持ちいいんだろう? さっきも散々喜んでたしね。最初はまあ無理やりだったけど、今日は違うだろう?」
聞こえていなくても構わない。だいぶ馴染み始めた体を自覚させればいいだけだから。
「気持ちいいだろう? シンジくん」
名前で呼ぶと大きく体を振るわせた。
汗を流し、こらえきれない唾液を零して、潤む目をぬぐうこともできず、全身を濡らして碇君は、吐き出すことだけを必死に堪えていた。無駄な抵抗だと思いつつも彼がどこまで粘れるのか試してみたくなって、波を合わせたりずらしたりしながら玩ぶ。
そうして堪えて堪えてとうとう背を反らし体を強張らせて吐射する。痙攣する体に、締め上げられて僕も中に吐き出した。
そのままつかんだ腰を離すとずるりと体は離れ、碇君はくず折れた。肩で息をする様子をうかがい、手をついて顎をつかむ。
「気持ちよかっただろう? 触ってないのにイッたみたいだし」
そういってその口を塞ぎ口の中を一なでした。悔しそうな表情を一瞬だけ見せて、そうして碇君は顔を伏せてしまう。たぶん、前のとき以上に彼の心は傷つけてしまったかもしれないけれど、前よりは絶対に気持ちよかったはずだからいいだろう。
「・・・なんで」
「何?」
「なんでこんなこと」
「したいから」
至極単純な理由だ。それ以外の何があるというのだろう。他にも何人かと遊んだことがあるけれど、男だろうと女だろうとしたいと思うからするんだし、したくなければどんなに美人とだってしない。そういう感覚は碇君としては範疇外なんだろうか。
「綾波がいるのに」
「レイは気にしないけど?」
レイが嫌ならしない。でも彼女は一度もそんなそぶりを見せたことがない。レイは僕以外とする気がないと言っていたからそれでいいし、僕はレイ以外とだってする気がある。それだけのことだと思う。
「自分が一番じゃないのがイヤなの?」
前に一度誰かにそう言われたことがある。その辺は僕には良くわからないけど。
一番はレイだ。それは変わることは無い。
「恋人とかそういう関係じゃないとイヤなの? 碇君以外の人としなければいいの?」
そう問うたら黙り込んだ。
「僕はしたい人とするよ? 今までもそうだったし、これからもね。碇君とはまたしたいと思ってるけど? 碇君はイヤ?」
顔を上げて睨むように僕を見て口を開いたけれど、言葉は発せられなかった。開いて閉じて、もう一度開いて、閉じる。そして搾り出すように小さく
「イヤ、だよ」
零した。こんなに気持ちよさそうなのになぁと彼の脇をすっとなでる。ん、と身体を縮めて僕を睨む。
さて、一度知った快楽をどこまで無視できるかな、と笑って碇君を見る。でもまぁ彼から誘ってくることはないだろうから、またちょっかいを出してみよう。たぶん、うまくやれば簡単に落とせるはずだ。
だから。今は引き下がってもいいかなと思う。
レイには音色が曇ったと文句を言われたが、それもしばらくのことで戻るだろう。回復不能なダメージを与えたつもりはなかったし。
結局、狙い通り彼は気持ちよさを拒絶しきれなかったようだった。体が忘れないうちにとネルフ内でトイレに引っ張り込んで無理矢理キスをしたけれど、口の中を散々味わいながら股間を刺激してやると抵抗がほとんどなくなった。形だけ手が肩にある程度。首筋を舐めてズボンの上から手を後ろに沿わせて「好き、やりたい」って囁いたら、見開いた目をぎゅっと閉じて、それから「ここじゃやだ」と小さく、ほんとに小さく口にした。閉じた目からは一筋涙が流れてたけど、舌で舐め取るとぴくりと震えた。
このチャンスは逃せないなと、そのまま腕を放さずにロッカーに連れ込んでひん剥いた。
それからも時々、シンジ君とは肌を合わせた。基本的には彼の部屋でするけど、監視カメラの死角をついてネルフの中でやったことも何度かあった。時々、抑えが効かなくなるのだ。やりたくてたまらなくなって気がついたら彼の中で。そんなことが何度かあった。
珍しい。体の相性がいいとかそういうものなんだろうと思う。
レイの時は彼女を労ることが出来た。その余裕があった。彼女の様子をみて彼女のことを考えて抱くことができた。それ以外の連中とは、ただお互いに気持ちよさだけを求めて、簡単な接合ですませていた。
シンジ君はどちらでもなかった。レイにも珍しがられるほどに彼の体を気に入ってた。
気をつけないとやりすぎて、翌日シンジ君がまともに起きられないことがあって、それ以来少し注意してはいる。幸い使徒の攻勢にぶつかることはなかったけれど、あんな状態ではエヴァに乗るなんて土台無理だというのはわかる。
それでも僕が好きなのはレイだったし、シンジ君が泣いても苦しんでも僕はなんとも思わなかった。好きだとは口にするけど、それはシンジ君のための言葉で僕の言葉じゃない。
レイにはそんな言葉を言わなくてもよかった。ただ思いを込めて名を呼ぶだけで、彼女には通じる。僕らが唯一絶対の相手だということを何ら疑うことはない。抱き合うだけで満足できるほどの充足は、他の誰とも味わったことはなかった。
心でレイを、体でシンジ君を求めていると言えば近いだろうか。欲望だけがシンジ君を求めている。
「あまり碇君をいじめないでね」
「いじめているつもりは無いけど」
「弱みに付け込んでいるように見えるわ」
「嘘はついていないよ。彼を気に入っているし、そういう意味では好きだしね」
「碇君は、好かれるのに慣れてない」
「そう、好きだといえば、抵抗できない」
「わかっててやってるなら、ずるいと思うわ」
「レイは本当にシンジ君がお気に入りだね。レイが彼を欲しいというのなら、僕はいくらでも手を引くけど」
「そういうのではないの。碇君としたいと思っているわけじゃない」
「? そうなのかい? てっきり」
「彼の音楽を聞いていたいだけ。それ以外は望んでいない」
すべてを諦めたような言い方。レイにはそんな風に言って欲しくない。仕方がないのかもしれないけれど、それでも僕らは望みを持っている。
「レイ、君は何を望んでもいいんだ。どんなことを望んでもいい。前にも言ったよね」
「ええ。わかってるわ」
そういって笑う。時々見せる、レイの笑顔。僕の好きな。
笑っていて欲しいのはレイだけだ。他の人はどうでもいい。シンジ君でさえ別に泣かせても気にはならない。
笑っていて欲しいのは、笑顔を見たいと願うのは、レイだけ。
おそらく、彼女もそう思っているはずだった。
エヴァが4体に増えて使徒殲滅がうまく行き始めて、1回の戦闘での負担は軽減しているように思われた。でもここ最近、世界中に現れていた使徒が日本に集中して現れるようになっていた。日本以外にも現れてはいるけれど、確実に減っている。
日本だけ、というわけではないし、使徒の目的すらはっきりしない現状では誰も確実なことは言えない。それでも一部の人達が僕らのせいだ、と思い始めているのは確かだった。
ネルフが、エヴァが、明確な敵として使徒に認識されているのではないか、という疑い。
ネルフの中でそれを口にする人間はいない。けれど、誰もがネルフだけで生活しているわけじゃなかった。僕らは外に、学校に行っている。子供は大人より建前がないから、大人が言っていることを考えもせずに口にする。
「おまえらのせいで使徒が来るんだ」
僕やレイは今更そんな中傷に傷つくことはなかった。でもアスカやシンジ君は、人類のためという大義名分で訓練を受け、今も戦っている。
使徒を確実に殲滅できる期待戦力は今のところエヴァだけで、他国はかなりの消耗戦の末になんとか倒しているという状況だった。EUのように複数国が連携している所はまだしも、単独国で使徒の侵攻をここまで撃退しているのは確かに日本だけ。使徒のせいで国家としての体をなさなくなった国さえあるのだ。自分達の生活が守られているという意味では感謝しても良いはずなのに、不安は簡単に相手の価値を引っくり返す。
エヴァがあるから使徒から守られる。エヴァがあるから、使徒が来る。
この矛盾した状況に人間である二人は少なからず苦しんでいるようだった。
守ってもらっているのは間違いのない事実だから、直接的な行動としてネルフへの害は発生していない。僕らにはガードもついている。だが言葉は、特に身近な何気ない言葉は防げなかった。
使徒については迎撃だけでなく色々な研究も行われている。日本のみならず、さすがにこればかりは世界が協力している。サンプルの豊富さで言えば日本が皮肉にも一番だが、それでも研究は遅々として進んでいないようだった。
どこからやってくるのかさえ特定できないのだ。どんなに警戒していても、ふいにそこに現れる。出現地点を後にどんなに調べても何も無い。どうしてそこに現れたのかわからない。
巨大なその体は現れるまでの隠密を許さないはずなのに、そこに現れるまでが不明。
まるでそこで生まれたかのように。
実際そうなのだろうと予想もされたが、ではなぜそこに生まれるのか? 何がそこに作用して彼らは出現するのか? 予測すらできないでいた。
使徒の構造自体の研究はそれ以外に比べれば進んでいる。弱点が光球(コア)と呼ばれる赤い玉であることは早い段階でわかっていた。そこを壊せれば、皹一つ入れることができれば使徒は活動できない。
またその外見は多種多様な生物の特徴を備えていることも見ていればわかった。魚類、爬虫類、鳥類、哺乳類、甲殻類、昆虫類、植物、微生物等などありとあらゆる生命体の形や特徴を表してそこに存在していた。
だからその形態から動きや能力を予想し、コアがどこにあるかを推測し、使徒を殲滅している。エヴァを持たない他国が、既存戦力のみでも辛うじて使徒を倒せているのは、その情報があるためでもあった。狙うべき場所は分かっているのだ。あとはそれを壊せるかどうかだけ。エヴァであれば狙いやすいコアも、ミサイルなどでは難しいというだけの話だった。
今までのところ、苦戦と言うレベルではなく国土が滅茶苦茶になっても、倒せなかった使徒はいない。
そして今のところ、使徒が複数種同時展開した事例もなかった。個体数として複数現れたことはあったが、種としては一つ。
だから何とかなっている。今までは。
だがこれからはわからない。
使徒の目的は不明のままだ。いつまで現れるのかもわからない。ゴールの見えない戦いは、心の疲弊を生んでしまう。
このまま続けば、ネルフへの風当たりは、風なんてものじゃなくなるだろうなと思う。
使徒が何か、というのは明確な解答を得られていない。だが、使徒殲滅の現場にいるもの、使徒の研究をしているものは、印象として「使徒は生物なのではないか」と思っている。現れ方やその他あり方とは矛盾するので全ての者がそう思っているわけではないが、微妙な共通認識だった。
特に僕らは、僕とレイは、使徒と対峙しているときに彼らの思考のようなものを感じることがあった。
思考と言っていいのかさえわからないが、何か感情めいたもの。攻撃の意志、防御の思考、恐怖めいた感情。そんなものがあるように思えた。シンジ君達に聞いたことがないから彼らも感じているかはわからないけれど、そういうものを感じることはネルフの研究者達に伝えている。
赤木博士にはもう少しつっこんだ話もしていて、使徒に感じる思考めいたものは、エヴァに感じるものと似ていた。
エヴァについては機密が多い。とういか機密ばかりだ。僕らは、その出生からエヴァの機密はほとんど意味がなく、かなりの事を聞いているけれど、シンジ君達がどこまで聞いているのかはわからない。
ごく一部だけが知る機密事項。
エヴァは使徒から作られている。
恐らく葛城二佐でさえ、本当のことは知らされていないのではないだろうか。
使徒の欠片を核移植するように細胞に移植してできたモノを元にしているのがエヴァだ。だからエヴァは生物に近い。自我のようなものがある。ただ、単独では人の制御下には置けなかった。そして人がそれをコントロールするのも難しかった。だからエヴァのコントロールを目的に、エヴァに近く人にも近い存在を。エヴァの欠片から作られた人間。それが僕らだ。
だから、僕らはそれほど訓練しなくてもエヴァとシンクロできた。
エヴァとのシンクロ。エヴァにある同調すべきモノ。それを意志・思考と呼ぶのであれば、使徒にも同じものがあるのだろう。
だったら使徒は生物なのだ。
逆説的な流れで僕らはそう思っている。
それが使徒の謎を解き明かすことにはなってはいないようだったが。
ただ最近。それが、使徒に感じる思考のようなものが、強くなっているような気がする。