母さんが死んでから、僕の周りからどんどん色が消えていった。
父さんは家に帰るのがイヤになったみたいで
もうずっと仕事仕事といって泊まり込んでいる。
僕も友達と話すことがめっきり減ってしまった。
トウジやケンスケ、アスカや綾波とは少し話をするけれど
話しかけられるから答えているのであって、自分からは話さない。

そのうちにトウジがいなくなった。
そしてケンスケが、アスカが、綾波がいなくなって
僕はひとりになった。

僕の目に映る色もどんどん減っていって
もうすべてが単色の世界、白と黒とグレーでできあがってしまって
薄墨色の中で僕もぼやけていた。
このまま、水墨画の墨のようにぼんやりと消えるのではないかと思えるくらいに。
それでも、信号が何色かなんてことは理解することができた。
見えているわけでは、決してなかったけれど。

そんな、なにをしているのかわからないような状態でも
体は動いて学校へ行って帰ってくるのだった。
なにをしているか覚えてもいないくせに
体はまるで自動人形のように動く。
もう誰もいないのに
すれ違う人の顔も、あるんだかないんだか。

もうずいぶん長く、そんな風だった。

その日も、体は学校へと向かっていた。

「やあ、僕を呼んだね?」

空から降ってきたのかと思う唐突さでその人はそこにいた。
思わず見上げた視線の先に映ったのは

その人の赤い瞳から目が離せなかった。
薄墨の世界で奇跡のようにその赤は僕を捕らえてはなさない。

「僕を呼んだね?」

その人はもう一度問うた。
僕は頷けない。首を振ることもできない。
ただ、その瞳を見つめ続けた。
動けない僕に、彼はにこりと笑って近づいてきた。
僕の頬に片手をあてて
それまで以上に鮮やかに笑った。

「………………………」

そのときに言われた言葉を、僕はどうしても思い出せない。
とてもとても僕を揺らした言葉なのに
思い出せなかった。
その言葉は僕の中をかき乱し、何かを膨れ上がらせた。
僕は顔をぐしゃぐしゃにして、右手で彼の服を握る。
そして頭をその肩に預けて泣いた。
声を上げて激しく泣いた。
泣いて泣いて、きっと墨の世界は流れてしまうだろうと思えるくらいに泣いた。
その人は僕の頭を片手で抱いて
もう一方の手を背中に回して僕を抱いてくれた。
ずっとほほえんだままで。

ずいぶん泣いて、やっと涙が止まりかけた頃。
彼は

「行こうか」

と囁いた。
こくん、と僕は頷いて顔を上げる。
彼は、やっぱり極上の笑顔で僕をみる。

僕の手を取って、彼は歩き始める。
彼の手を握って、僕は歩き始める。

世界はいつの間にか綺麗に真っ白になっていて
僕は彼の手を頼りにその後について歩いた。
彼の髪が銀色だということや
彼の手がとても白いことに気づく。
時折振り返る瞳はやっぱりとても赤くて
僕の中に溜まっていった。

どこまでも僕らは歩き続けて
僕の中は赤くなった。

僕の記憶(夢)は、そこで途切れる。

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