歌を聴いた気がした。
カヲル君の隣で眠ったあの夜に。
夢だったのかもしれないし
本当だったのかもしれない。
隣で眠る彼を見た。
夜も真ん中を過ぎた頃。
彼、シンジ君は微かな寝息を立てて良く眠っている。
"慣れない所だとあんまり寝られない"
と言っていたから、きっと今は安心してくれてるんだと思うと
少し、嬉しかった。
時折小さく寝言を言って寝返りを打つ。
その顔をよく見たくて、枕元に跪いた。
起こさないように気を付けて
その黒い髪を梳く。
「ん……」
一瞬、薄く目を開けたかと思ったけれど気のせいだった様だ。
とても無防備な顔で
すーすーと眠っているシンジ君が
とても、
とても愛しかった。
この先、彼の夢が曇ることがないようにと願ってしまうほどに。
僕が、それを願うことは許されていないというのに。
シンジ君の目尻で透明なものが光る。
哀しい夢を見ているのだろうか。
唇でそっとそれを掬い、
変らずに彼の頭を撫でながら
僕はとても古い記憶を引っ張り出す。
僕の記憶かどうかも怪しい
とてもぼやけたもの。
子守り歌。
ドイツ語の古い子守り歌を僕は小さく歌う。
彼の夢に届くように。
人と人はいつか離れなければならないと言うけれど
僕はちょっと普通とは違う理由で
明日、君とはお別れだから。
そうじゃなければやりたいことが
本当は、たくさんある。
暗い夜、こんな風に誰かのために
子守り歌を歌う自分を
僕は想像したことがなかった。
嬉しいんだよ?
君に伝えられないのが残念だけどね。
こうしてずっとじっと見てたい。
ずっと、ずっと、この先も、
君の寝顔を見ていたい。
遠い夜、
君と二人でいる夢を
僕は見たような気がした。
聴いたことのない音楽が
ふいに頭の中を流れ出す。
どこで聴いたのかわからないけれど、
とても優しい感じがして
苦しくなって僕は泣いてしまう。
遠い昔に聴いたようにも思えたし
ついこの間聴いたようにも思えた。
ただ、
とても心が痛むほどに
それは優しい音楽だった。