夕方6時を過ぎて、それまでの彼女と代わってエレベーターに乗る。
もうすぐクリスマスだと言うのに今日は客が少ない。

「ご利用の階をおっしゃって下さい」

無人の箱に最初に乗ってきたのは男の子で、俺を見て一瞬困った顔をした。
そして指を6本立てた。

「6階ですね。かしこまりました」

俺はなんか変だなと思いつつもそのまま黙っていた。
6階に付いて少年は降りていった。

それから15分ほどして、同じ少年が今度は二人連れで乗ってきた。

「ご利用の階をおっしゃって下さい」

そういうと、今度はもうひとりの銀の髪の少年が答えた。

「地下一階、お願いします」
「かしこまりました」

そして俺は見ないフリで二人を見ていた。
銀の髪の少年が黒髪の少年に話し掛ける。

「このまま帰るかい?それともどこかで何か食べてく?」

少年は口と一緒に手を動かしていた。黒髪の少年は手だけで答えていた。
手話だ。
以前、人気になったドラマでやっていた。簡単な挨拶くらいは覚えたりもしたが、俺にはほとんど使えない。
最初に乗った時に、困った顔をした理由はこれだったのだ。

「そうだね、あのお店おいしかったし。じゃあそこにしよう」

そうしてしばらく二人は話をしていた。
気のせいか思い込みか、黒髪の少年の表情がさっきより柔らかい様に見える。
安堵、なのだろうか。

地下1階に付いて二人が降りる。俺はそれを何となく見送った。

世の中に障害者と呼ばれる人達が居ることは知ってはいる。実際車椅子の人がエレベータに乗ってくることもある。しかし、結局は自分には関係ない人達だ。俺はそんなに慈悲の心はない。ボランティアなんてしたい奴がすれば良い程度にしか思ってはいない。
でも時折、こんな時に不思議な気持ちになる。

あの少年だって自分と同じ人だ。同じ日本人なのに会話もできない。
俺は一応英語は出来る。仕事上外国の客も来るからだが、今同じ日本の人と話が出来なかった。英語は学校で習うのに、手話は国語ではないのか。そんな事を思ったりもした。学校で第二言語として手話を教えたりしたら、彼らも誰とでも話が出来るのに。

そんな事を考えたけれど、別に俺は何か実行することはないだろう。こんな考えも一時的なもので、日々の生活の中で忘れてしまう。
結局はそんなやつでしかないのだ。

「ご利用の階をおっしゃって下さい」
「かしこまりました」
繰り返して時間が過ぎて行く。

ある日の、小さな出来事だった。

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