僕の手元には1冊のノートがある
僕の大好きな人の使っていた、
僕が転校する時に、彼から貸してもらったノート
もうずいぶん昔のことになってしまったけれど、僕はまだ返していない

中学のときの数学のノート
テストが終わって、だからといって要らないわけじゃなかったけど、
僕はそのノートを貸した
返ってこないだろうなって思っていた
どちらかといえば、返ってこないことを期待して貸した
期待通り、いまだノートは彼のところにある

母さんや友達は、

「向こうもきっと忘れてるし、このままもらってしまって処分すれば?」

と言うけれど
僕はこれを絶対にもらったりしないし、処分したりもしない
これは、いつか、返さなきゃいけないんだ
そうじゃなきゃダメなんだ
そのために、借りたんだから

彼から借りたノート
僕の大事な、大事なもの

時折口にすると、もう忘れられてるわよと言われたけれど
そう言われるのが嫌で、いまでは忘れたふりをしているけれど

「ちゃんと返すよ」

そう言ってくれたから
きっとノートは返ってくる

絶対にいつか、返ってくる

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