「ただいま」
「おかえり」
誰もいないと思っていたのに返事があって驚く。
カヲルが顔を覗かせて笑う。
「カ、カヲル君。ネルフじゃなかったの?」
「思ったより早くテストが終わってね。夕飯の準備、できてるよ」
そういって近づいてくる。
靴を脱いで玄関でぼんやり立ち尽くすシンジは、一瞬びくりと体を震わせた。
「外、寒かったの?」
「ど、どうして?」
「何か震えてるみたいだから」
「別に、寒くはなかったけど」
目の前に立ったカヲルがシンジの頬に手を伸ばすとその唇に軽くキスを落す。
目を閉じてキスを受けたシンジがゆっくりと目を開けると、カヲルは考えこむような顔をしていた。
「シンジ君。どこか寄ってきた?」
「え? 別に。コンビニくらい、だけど」
内心の動揺を必死に隠してシンジは答えた。
”大丈夫、痕を残すようなことはされてないし、シャワーは浴びられなかったけれど、体は綺麗にぬぐってもらった。”
自分が嘘をつくには向いていない性格だとわかっているシンジは、一生懸命自分に言い聞かせる。
「そう? でもやっぱり冷えてるみたいだから、先にお風呂に入っておいでよ」
そう言われてシンジは頷いた。
お風呂に入ったことでシンジは安堵して食卓につく。
まだシンジの髪は完全に乾いてはいなかったけれど、カヲルはすぐに温かいスープをよそい、向かい合って座ると食事を始める。
いつもより会話が少ないように思うのは気のせいだろうか?
シンジは、やましさがあるからそんな風な気がするのだと自分に言い聞かせて、努めて自然に見えるように振舞った。
食事が終わって二人で後片付けをして、シンジは居間で宿題を広げる。
集中できずにぼんやりしているとふいに髪に触れられる。
お風呂にいったものと思っていたカヲルがそこにいた。
まだ少し湿るシンジの髪をくしゃくしゃとかき混ぜると顔を近づけて匂いをかぐ。
「うん。タバコの匂い、取れたみたいだね」
シンジの心拍数が一気に倍になる。
「タバコ?」
「うん。さっき帰ってきたときに、かすかにだけどタバコの匂いがした」
「コンビニでかな。立ち読みしている人がタバコ吸ってたから」
「そんなに長くコンビニにいたの? シンジ君も立ち読み?」
「うん。適当にパラパラと。カヲル君もいないしって思ってたから」
「ふーん」
そう言うとカヲルはシンジを抱き寄せて口付けてきた。
簡単なキスではない、深く深く侵蝕されるようなキス。
シンジの口の中で暴れまわるように動く舌に息が苦しい。体を押し返そうとする腕にも力が入らない。
唾液を飲み込むこともできず口の端からつっとこぼれて行く。
酸欠で頭がくらくらして思考は停止する。
気がつくとシンジの体は床の上に寝かされていて、カヲルの手はシャツの下に入り込んでいた。
胸の尖りに指先が触れただけでびくりと体は反応した。
カヲルはずっとシンジの口腔を貪りつづけている。
両の手で胸をいじられて、同時に太腿が股間をこすり上げるように動く。
もうそれだけで簡単にシンジは反応し、あっという間に射精していた。
びくびくと揺れる腰が落ち着いてやっと、カヲルはシンジの口から離れた。
荒い息をしているシンジの頬にそっと手を添える。
「いつもより反応がいいね。こんなに簡単にイくなんて。そんなにヨかった?」
既に赤い顔がもっと赤くなる。
「大体の予想はつくけど、正直に話せっていうのが無理だっていうのもわかるけど、シンジ君に嘘付かれるのは結構キツイね」
その言葉でシンジの目からぼろぼろと涙がこぼれる。
「ゴ、ゴメン。ゴメンカヲル君。ゴメン・・・」
謝罪の言葉を繰り返す。何度も何度も。
ばれないと思っていた。カヲルは今日いないはずだったから。
ばれたくないと思っていた。カヲルを裏切っていることはわかっていたから。
結局は流された自分が悪いんだとわかっていたから。
謝りつづけるシンジの唇に今度は触れるだけのキスをしてカヲルはシンジを抱き起こす。
涙と涎でぐちゃぐちゃの顔をまだ崩すように泣くシンジをぎゅっと抱き締める。
「シンジ君が好きなのは、僕だけだよね?」
ゆっくりと耳元で囁かれる言葉にシンジは必死になって頷く。
声が、言葉が出なくて頷くことしかできない。
カヲルが好きなのは事実だ。
他の誰よりもカヲルが好きなのは間違いないのに。
シンジは、まともに考えることさえ出来なくなった頭で、「それでも」と思う。
それでもきっと、また流されてしまうんだろう、自分は。
そう思ってしまうことに尚更涙は溢れてきてしまい、シンジはいつまでも泣き止まなかった。
「誰といても帰ってくるところは僕のところだよね?」
そう囁くカヲルにシンジはしがみ付いて泣きつづけた。
カヲルは哀しそうな表情を隠そうともせずに、シンジを抱き締めていた。