シンジは夢を見ていた。
温かい水の中で膝を抱えて丸くなっている。
ゆらゆらとした心地よさと、無限の安心感。
どこからか光が射していて触手のようにシンジの傍で揺らめいている。
不思議な文様がシンジの肌の上で変幻する。
目を開けているのか、閉じているのかわからない。
音は聞こえているようだけれど、幕を張ったようにぼやけている。
ただそれでも、声を聞いた。

“碇君”

“シンジ君”

“シンジ”

シンジ―――――

プシュン!!
エントリープラグがその巨体の背に押し出される。
蓋が開いてオレンジの液体が溢れ零れた。

「ゲホッ!うっ、ぐ。ゲ、ゲホッ」

プラグの壁に頼るように腕が伸びる。
肺の中の水を吐き出す気持ち悪さにめまいを起こしながら、シンジはその身を起こした。
ひとしきり喘いで、吐き出すものを出してしまうと、
シンジは死んだように体を折ったまま動かなかった。
こぼれたLCLが気化して、陽炎のようにシンジの周囲に纏わりつく。
その濃密な塊に刺激されてシンジは微かに頭を上げた。
目が痛みを感じていた。
視線だけをあげると、焼き殺そうとするほどの日刺しがそこにあった。
制服のままのシャツはすでにかなりが乾いている。
LCLは完全に消え失せ、呼吸をすると喉が少しヒリついた。
ふらつきながら立ち上がり、シンジは世界を見た。
砂。
緑も水もなかった。
しばらく呆然と見えるものを見ると、シンジはプラグから出て、降りようとする。
足元は覚束ず、途中で滑り落ちる。
砂は思ったよりもしっかりをシンジを受け止めた。
ちょうどそこは陰の部分だった。
しばらく落ちたままの格好でシンジは目を閉じていた。
日陰だというだけで、こんなに違うのかというほどに、呼吸は楽だった。

碇君。

ぴくりとシンジは震える。
ゆっくりと顔を上げて、再び世界を見た。
かわらない砂の世界。

シンジ君。

ゆっくりと立ち上がる。
陽炎の立つ遠いところに視線を向けたまま。
背を装甲に預けて立ちつくす。

シンジ。

ふらり。
倒れるのではと思わせる足取りで、シンジは一歩を踏み出す。
ゆっくりと、ゆっくりと足を動かしていく。
空の上では光の塊が、すべてを消すかのごとくある。
シンジは、休むことなく歩を進める。

風もない砂漠に、紫の巨体。
小さな足跡がどこまでも続いていた。

お話へ