街中を二人で歩いていた。夕暮れの人通りの多い時間帯。
僕らと同じ学校帰りの学生や、会社帰りのサラリーマン、夕食の買い物に来た主婦。
いろんな人が歩いている。
そして、そのほとんどの人たちが僕らを、正確には僕の隣にいる人を見ていく。
振り返って声を上げてる女の子達もいたりして。
それは彼が、アルビノと言うちょっと珍しい髪の色をしているせいでもあるんだろうけれど、
何よりその整った顔立ちによるところが大きいと思う。
すっと通った鼻筋、切れ長の目、微笑みを絶やさない口元。
それに体つきも細いけれどバランスは良くて、モデルみたいだから、人の注目を浴びるのは当然だと思う。
実際、彼は見られ慣れている。
だからそんな衆人の注目なんてまるきり気にしないで僕に話し掛けてくる。
僕は応じながらもちょっと複雑な気分になる。
いいな、とちょっと思う。羨ましいと思う部分はある。
こんな彼が僕なんかと一緒にいることが間違いなんじゃないかと思っていた時もある。
でも今は、他の人に見せたくない、って気持ちも生まれている。
彼が僕以外の人を見ることはないだろうと思ってはいても、やっぱり気になってしまう。
"カヲル君は、僕のものなのに"
なんてすごく勝手なことを思ってしまったり、
彼は僕を好きだといってくれるんだ、と言って回りたい気持ちになってしまったり。
でもそんなことはできないんだけど。
「僕のものだよ」ってちょっとだけ思ってみる。
僕にだけ、触れてくれて抱き寄せてくれて、体中で触れて口付けてくれて・・・
そんな事を考えながらちらっと彼を見たら、視線は彼の唇にぶつかって。
"キスして欲しいな"
なんて唐突に浮かんでしまって僕は顔を真っ赤にする。
「どうしたの? シンジ君。顔赤いよ?」
覗き込むようにそう言われて僕はますます赤くなってうろたえる。
「な、なんでもない。何でも、ないから…」
目線をずらしてよそを見ながら、必死に心を落ち着かせる。
なかなか止まらないドキドキ。
「ふーん」
そう言って前を向いて彼は歩く。僕もちょっと後ろを歩いていって、短い沈黙が降りる。
駅へと向かう道だから、相変わらず人は多くて。
「シンジ君」
呼ばれてふいと顔を向けたら、チュッてキスされた。
一瞬だけの短い、ほんとに唇の先だけが触れたようなキス。
どこかで「きゃあ!!」なんていってる女の子の声が聞こえたから、しっかり見られてはいたみたいで。
目の前でにっこりと笑う彼をしばらく眺めてしまう。
「カ、カヲル君!!!!」
真っ赤になって、でも出てくるのは名前だけで。
パニックを起こしてアワアワしてる僕を見て彼は、
あはははははって笑って歩き出す。
呆然と見送って、視線が集中してるのに気づいて僕は慌ててその場を逃げるように追いかけた。
まだくすくす笑ってるカヲル君に追いついて、でも並べなくて背中を見てる。
うつむいて泣きそうになりながら
「ひどいよ、こんな所で」
って言ったら彼はくるりと振り返って、
「ごめん、ごめん。だってシンジ君がキスして欲しそうだったからさ」
笑っていった。
その顔と言葉に、もう何も言えなくて。
"キスして欲しいな"
確かにそんなことを思ってしまったから。
思ったけど…思ったけどさっ!!
「もう、知らない!」
むくれてそっぽを向いて、さっさと一人で先を歩く。
恥ずかしくて恥ずかしくて仕方なかった。まだ周囲で笑われてる気がする。
カヲル君が僕の前に立って、僕に向かってちょっとまじめな顔で
「ごめん。でも僕もね、ここでシンジ君にキスしたかったんだ」
そう言うと、僕の顔を伺うように覗き込んだ。
収まってなかったドキドキがまたひどくなって、僕は何も言えなくてカヲル君を見た。
嬉しかった。本当は。
キスされたのも、こんな風に言ってもらえたのも。
カヲル君はにっこりと笑って、すっと僕に手を出す。
「行こう?」
ゆっくり僕は手を出して、カヲル君と手を握る。
嬉しくてすごく笑いたかったけど、一生懸命堪えて、でも顔は緩んでしまっていて、
ぴたりと体をくっつけて、手をしっかり握って、僕らは人込みの中を歩いた。
空には星が輝き始めていた。