学校の屋上。フェンスに跨っている少年。
シンジだった。
虚ろな瞳で暮れていく空を見上げている。

「どうすれば・・・いいんだろう・・・?」

小さな、ほとんど何も震わせることのない、音。

ざわざわとはるか下方、校庭から声が昇ってくる。
反対側、ここへと続く階段からも音が近づいてきた。
でも、シンジの耳には、まるきり届いていない。

「何してるのっ!降りなさい」

ドアを開ける大きな音の直後、第一声がそれだった。
シンジはゆっくりと視線を向け、それがミサトの声であることを確認する。
真剣な表情。普段は見られないけれど、作戦中にはよく目にした。
シンジには何故だかその顔がとても可笑しかった。

なんでそんな真剣な顔してるんだろう?

駆け寄りたいのだろうに、何故か妙に距離を取って
じりじりと寄ってくるミサト達にますます笑いが込み上げてくる。

「あんまり寄ったら、落ちちゃいますよ」

シンジは、本当に可笑しくてしょうがないという顔で笑いながら言う。

ミサトの後ろにいるのはネルフの職員だったけれど、
シンジが知っている顔はひとつもなかった。

ああそうだね。今それどころじゃないもんね。

奇妙に冷静な声の自分が言う。

「兎に角、そこを降りて、それから話をしましょう。ね?
そんな所あぶないから、早く降りて」

ミサトが必死に呼びかける後ろで他の職員はただ黙って成り行きを見ていた。
確かに、彼らに言える言葉なんてないだろう。
シンジのことを知っているわけじゃない。
それでも、顔は強張っていて、
シンジは大声を上げて笑ってみようか?と思う。
だって滑稽だ。

それでもくすくす笑う程度で止めてシンジは言う。

「あぶないのはわかってますよ。
別に構わないでしょう?僕は自分の意志で此処にいるんだから」

ゆらりと大きく傾ぐ体に、ミサトの声が上ずる。

「落ちたら死んじゃうのよ」

ミサトにそんな声を、それもエヴァに乗っていないときに出させるのは初めてかもしれない。
そんなことを考えながら、シンジは空を見上げる。

「そうですね。 このまま倒れたら、僕の体はどちらに落ちると思います?」

「馬鹿なことを言ってないで、降りなさい、こっちへ。ゆっくり」

「馬鹿なことじゃないんですよ。僕にとっては。

・・・・・・ねえ、ミサトさん。
僕は人殺しですか?」

「違うわ」

即答してくれたことが、シンジにはとても嬉しかった。
でも―――

「でも、僕は自分が人殺しに思えるんです」

シンジは笑顔で言った。
表情は確かに笑っていた。
ミサトはそれに対して何も言えなかった。
何を言えばいいというのだろう。

シンジも、誰に、どれだけの人に「違う」と言われても無駄なのはわかっている。
もし今現在、カヲル自身に「違う」と言われても駄目な気がする。

どうして?
そして、どうすればいいんだろう?

だから、ここに来た。
全てを何かに任せて、審判するために。

ぐらり、とシンジの体が傾く。
ゆっくり、体を反らせるように、手を離して、
空を見上げるように。

さて、どちらに―――――?

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