適しているといえば、これ以上ないほど適しているのかもしれない。
ここに来る度にそう思う。
近すぎず遠すぎず。
忘れてしまう事もなく、目に付くほどでもない。
人が住むにはあまりに寒々とした土地。
雑草一本生えていないのは、管理が行き届いているわけではなく
ただ雨が少ないだけだ。
無数の石柱が整然と並ぶその様は、どこかの古い遺跡を思い出させる。
いつも強い風が熱を奪うように吹きぬけ、この国が常夏である事を忘れさせる。

―――荒涼―――

他の石柱と何ら変わらないそれを
私は間違えた事はない。
目印さえ見つけられないこの場所で、無駄なほどある石柱の中から
たったひとつを私は見つける。
自分でも不思議なほどに確実に。

一人で来るようになってから、花一輪手向けた事はないが
毎年ここに足を運ぶ。

もしかしたら今年こそは、
それを「墓」と思い、その下に亡骸を思い、手を合わせ泣けるのではないか、と思うのだが
未だにそれはただの石で、やはりここには彼女はいないと思うだけだった。
それを幼さに責められたのはいつのことだっただろう?

にゃお

真っ黒でまだ小さいネコが、足元にじゃれていた。
ここで人以外の生き物を見たのは初めてだった。
酷く痩せこけていて、飢えているのは明白だった。
そっと屈んで手で掬う。
片手で十分収まった。
悲しいほどに軽い体。

にゃあ

“生き物”に触れたのはどれだけぶりだろう?
人の中にいても人に触れる事のない日々をどれだけ過ごしていたのだろう?

「小さいな」

それは確かに生きていて温かく、そして動いた。
その小ささは別のものを思い出させもした。

「・・・・・・これでも息子がいるのだ。いや、いた、というべきか。
もう何年も顔すら見てはいないからな。
あれも、お前のように小さかった。
これで生きていけるのかと思うほどに、 小さくて温かくて柔らかかった。
怖いと、思うほどに小さかった。

元気でいるはずだ。たぶん。
もう、二度と会う気もないが ―――――――」

にゃぁぁ

手のひらに温かいものを抱えたまま、石に背を向けて歩き出す。
いつまでも気持ちは変わらないが、来年もまた私はここへ来るだろう。
同じ痕を何度もなぞり深く深く刻み込むように
変わらない事を確かめに、何度も何度も来るだろう。

そして―――――

これも、私の願望のひとつです。

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