カタカタカタカタカタ…………
暗闇に光。四角く切り取られている白。
子供が光の中で遊んでいた。
温かそうな帽子と手袋。
もこもこの上着で丸くなって、白い塊を作って投げている。
モノクロの映像。
古い型の映写機の下にシンジは居た。
カタカタと音を立ててぶれながら像を結ぶ。
そこで遊んでいるのは間違いなく自分だった。
辛うじて見たことのある数枚の写真と同じ顔。
だが。
息を吐き、頬を染めて走り回るその姿は記憶になかった。
セカンドインパクト以降、この国に雪の降った記録はない。
だが目の前の自分は間違いなく雪景色の中に居るのだった。
時折、母と思われる人の姿も見える。
シンジは不思議な気持でそれを見ていた。
雪を見たことはない。
冷たいものだと聞いている。
白くて綺麗だと聞いている。
触れれば溶けるのだとも聞いている。
だが実際に見たことはないはずだった。
子供はきゃらきゃらと良く笑い、雪玉を作っては投げたり転がしたりしていた。
大きくなったのを重ねて雪だるまを作り、その側に雪ウサギを置く。
自分ではない自分の姿。
これは何なんだろう?
まるで誰かの視点で見たような映像。
視線は間違いなく子供を追っている。
そしてその子供はちゃんとこの視線の持ち主を見ている。
ならば。
覚えているはずなのに・・・なぜ?
思い出そうとシンジは目を閉じてみる。
この映像と同じ景色を、見てはいないか?
この、雪、を。
ふいに降りしきる雪を意識する。
寒くはない。
ただ、閉じた目の向こうに白い綿が落ちていっているようだった。
目を開ければ、変わらず光の中、子供が笑っている。
再び目を閉じて、その雪の気配を追う。
この雪は、自分の記憶なのだろうか?
ここまで雪を感じながら、未だにそれを見た覚えがない。
閉じた視界に降る雪の向こうに影が見えた。
思わず目を開きそうになって止める。
これは瞼の裏の映像。
閉じたまま目を凝らす。
人が立っている。
モノクロで、輪郭がぼやけて良く分からないけれど、
背格好は自分に似ている気がした。
色はわからないけれど、その髪は薄く白く見える。
では、自分ではない。
「誰?」
おもわず声に出して聞いた。
幻の像に向かって。
問うてから、馬鹿みたいだと思った。
返事がある訳がないのに。
でも、その人は、かすかに笑ったような気がした。
その顔を良く見たくて、シンジは目を開ける。
カタカタカタカタ………
白い光の中、変わらず子供がはしゃいでいる。
はっとしてもう一度目を閉じてみたけれどもう、
雪の気配も人の姿も映りはしなかった。
何もないような雪の平原を子供は誰かと進んでいる。
どこへ向かっているのか、そこがどこなのか
まるきりわかりはしない。
この視線の主は、先ほどの人なのだろうかと考えたとき、
ガシャン
大きな音と共にすべてが闇に沈んだ。
カタカタカタカタカタ…………
暗闇に光。四角く切り取られている白。
子供が光の中で遊んでいた。
温かそうな帽子と手袋。
もこもこの上着で丸くなって、白い塊を作って投げている。
モノクロの映像。
これは、誰?
カヲルは問う。
知らない子供だ。
きゃらきゃらと良く笑う、濃い色の髪をした子供。
モノクロの映像では色まではわからないけれど
黒、なのだろうと思う。
子供は時折レンズに視線を寄越す。
満面の笑みで、こちらを見た。
何かを言っているようでもあったが、
音は、まるきりしなかった。
確かに知らない子供のはずだけれど
昔見た夢のように懐かしかった。
真っ白な雪の中で
子供は笑いながら駆け回っている。
小犬のように。
急に立ち止まって子供は振り返る。
そのままトコトコとこちらへ寄ると
大きな目をくるりと見開いて
カヲルを見た。
正しくは、レンズを見ているのだろうけれど
カヲルはまるで自分が見られているように感じた。
何も言わずにじっと
大きな瞳で見ている。
引き寄せられる。
思わず見返す、カヲル。
"この頃は・・・"
頭の中に浮かぶ言葉。
それは自分のものではなかった。
"この頃はまだあれをかわいく思っていた・・・"
まるで心だけ他人になったように
自分のものではないものが生じる。
愛しさと痛み。
目の前の子供に向けられたものだとわかる。
これは、この感情も映像もすべて
誰かの記憶なのだろうか・・・?
"もう傍にはいられない"
痛みだった。
カヲルの心を切るようにそれは走った。
心の軋む音と共に、痛い、と感じたとき
ガシャン
大きな音と共にすべてが闇に沈んだ。