「また、この夢・・・?」

妙に軽く、そしてどこかが歪んだ、靄のかかる視界。
微かに甘い匂いがして、それが何の匂いかはわからないんだけれど、ただ「これが、夢だ」ということはわかる。
目が覚めるともう翳んでしまうほどの弱いもので、夢の中でだけ思い出している、夢。

正直言えば、見たくはない。
あまり良い夢ではないから。

歩いているわけではなく、ただ視界が動いて、立っている場所が変わる。
遠い向こう、少し薄暗い中に誰かが立っていた。
行きたくない、と思うほどに加速がつくようで、何とか逃げようとするけれどいつも無理で。
それが何か判別つくくらいになると、僕はわざと見ないように視線を逸らした。

ここまでくればわかる。
あれは、僕だ。
いつもと同じ学校の制服。
鏡で見るような、どこか虚ろな瞳。

その僕が、ゆっくりと僕を見た。
口の端を上げて、にた、と笑うと足元を指差した。
その表情は、絶対に僕のものではないのに、でもそれはとても馴染んだものに見える。
僕は、見たくなかったのに、顔は勝手に俯いてしまい、「それ」が視界に入ってくる。

父さん。

血溜りの中にうつ伏せているのは、父さんだった。
死んでいるのだとすぐにわかる。

「嬉しい?」

もうひとりの僕の声。
嬉しい?
何が?
僕は声が出ない。動くこともできない。
いつも、こうだ。
いつもこうして僕は誰かを傷つけている。誰かに酷いことをしている。

父さんだったり、アスカだったり、綾波だったり、ミサトさんだったり。
ネルフの人やトウジやケンスケや、学校の先生やおじさんや。

「嬉しい?」

聞こえる声は紛えようもなく自分の声で。
その音の感情は間違いなく嬉しそうで。

”違う、違う、違う”
僕は必死に声に出そうとして、でも、結局喉はピクリともしない。

「嬉しい?」

訪ねる僕の声ばかりが木霊して、僕は必死に否定する。
筋肉が痙攣し、全身がびしょぬれになるほどに。

目が覚めれば、僕はそれを覚えてはおらず。
夢はまた訪れる。

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