ふとした瞬間に、すごくすごく幸せだって感じる。
となりにカヲル君がいて笑ってくれて、一緒にいられて本当に幸せなんだ。

ああ、嬉しいな、幸せってこういうのを言うんだな。

そんな想いと一緒に、でも本当は、僕にそんな資格はないんだ、とも思って。
いつかきっと、こんな生活は壊れてしまって、僕は僕に合った暮らしになる。

きっと。

幸せ過ぎて怖くって、思わず列車に飛び込んでしまいたくなる。
このまま、この幸福な状況のままですべてを終わらせてしまいたい。

「シンジ君!」

慌てた声で肩を捕まれて、正気になる。
ゆっくり振り返ると
悲しいくらいに僕を、心配してくれている、カヲル君の顔が、あって。

「ご、めん。ぼく、だいじょうぶ、だか、ら…」

ぎこちなく唇を動かして答えるけれど、まるで夢から覚めたばかりのようでうまく感覚が戻らない。

カヲル君は僕の手を掴んで離そうとしなくって、家までずっとそうしていた。
あんまり汗もかかない手のひら。細い綺麗な指が、僕の手を握っている。

ああ、こうしてずっとずっとただ歩いているだけでいいのに。

夜気は酷く冷たくて、息が白く篭って消える。
ちらり、白い粉が落ちて来て、それは静かに数を増やす。
見上げるとダークグレーの空から無数の白虫が降りて来ていた。
立ち止まって馬鹿みたいに口をあけて空を見ている僕を、カヲル君はぎゅって抱き締めて、

「僕は、どこにもいかないから。君を置いて消えたりしないから」

そう囁く。

「うん………うん………わかってるよ。わかってるんだ。
でも。
でも、怖いんだよ」

空を見上げたまま僕が言う。視界の端に銀色の柔らかい髪が見える。

幸せなんだけどな。
本当に、こんなに幸せなのに。

「大丈夫。すべてのことは、きっと旨く行くようにできてるから。
だから何も怖がらなくていいんだよ?」

優しいカヲル君の声。
うん、きっとそうだね。たぶん君の言う通りなんだ。
それでも涙が零れて来て、僕は拭わずにただ零しつづけた。
カヲル君がゆっくりと頬に触れて、自分の方へと僕を引き寄せ、
蝋燭みたいに笑うカヲル君が、僕にキスする。

カヲル君が、僕にキスをくれる。

あんまり幸せだから、
やっぱり僕はちょっとだけ、全部終わらせたいって思った。

雪の音が僕らを包んで、僕はそっとカヲル君を抱き締めた。

お話へ