赤い瞳。赤い瞳。
不自然な、けれどとても自然に見える、綺麗な綺麗な赤。
「どうして僕の目は赤いのか、わかるかい?」
そう、笑って尋ねられたけれど理由なんて知るはずもなくて、僕は
「どうして?」
と聞いた。
「普通はね、この瞳と呼ばれる部分、虹彩には色素があるんだよ。
その色素の色が目の色になるんだ。蒼とか緑とか。シンジ君みたいな綺麗な黒とかね。
カラーコンタクトみたいなものだね」
「じゃあ、カヲル君のはそこが赤いの?」
「違うよ。色が無いんだ。色素がないから、そこを流れる血の色が見えて赤いんだよ。
だからこれは血の赤なんだ。白兎と同じ」
その色素は、光を遮って眼球の中に入る光の量を調節しているのだと教えてくれた。
色素のないカヲル君は、僕らよりずっと光に対して目が弱い事も。
「シンジ君はウサギを、白いほうだけど、殺した事ある?」
「あるわけないじゃないか!!」
「学校とかで飼ってなかった?」
「飼ってたけど・・・」
「だったら死んでしまったりしただろう?そういうのを見た事はない?」
「ないよ。死んでしまったりしたら先生は僕らに見せないように埋めてしまったから」
「そうなんだ。
じゃあ、死んでしまったウサギの目が、赤かった目がどうなるか、知らないんだね」
「・・・どうか、なっちゃうの?」
「普通はね、色は残るんだ。当然だよね。そこに元々色があるんだから。
でもウサギはね、そこに血が通わなくなるともう、赤くないんだよ」
「赤くないって、どうなるの?」
「説明できない」
「・・・・・・それじゃ、あの、カヲル君の目、も?」
「たぶんね」
その会話の内容は怖かった。僕は死とか死体とかの話が怖かった。
死は流血や痛みを伴ってイメージされる。
恐怖を、殺戮とか狂気といったイメージを僕に持たせる。
でもカヲル君は淡々と何でもない事のように、それがごく普通の日常のように
死や死体について口にした。
あまりにも普通に話し掛けてくるので、僕は思わず返事をしてしまう。
怖いと思うのに、僕もまるで当たり前の事のように答えていた。
カヲル君をちらちらと見たけれど、その表情に僕と同じような恐怖の色を見る事は
できなかった。
あとで、カヲル君の赤い目をまともに覗き込む事になったけれど、その赤はとても綺麗だった。
血の色だよと言われても僕の中の血のイメージとはかけ離れた赤だった。
吹き出す血よりも鮮やかな赤。
それは持って生まれた備わった色だと、僕の目が黒いのと同じように赤いのだと、
僕には思えた。
一度視線を合わせてしまうともうそらす事ができない、不思議な力を持った瞳。
僕はそれに囚われてしまう。
けれど。
握り潰されずに残った頭部の目は、薄く開かれていた。
微笑みの形を少しも崩さないで。
最初は、LCLのせいだと思った。
その色の濁りは、とても汚いものだった。
汚いと、気持ち悪いと思ったのだ。
あんなにきれいな色をしていたのに。
汚れた茶と腐食の緑の入った、濁った色が、
そこにあった。
「じゃあ、死んでしまったウサギの目が、赤かった目がどうなるか、知らないんだね」
そうか、こんな風になってしまうんだな。
きれいな赤だったのに。
まるでもう、モノになってしまったその頭を抱えて、
僕はただ呆然としていた。
僕を捕えた赤はもうない。
その汚く淀んだ目を覗き込んだまま、代わりに僕は死に囚われる。
そのもう唇ではなくなった部分に口付けてみたけれど
ゴムか何かのような感触しかしなかった。