"Do you love me?"
再び 碇シンジ
シンジ | 何だ?この感触。 前に一度あったような。自分の体の形が消えていくような。 気持ちいい。 自分が大きく広がっていくみたいだ。 どこまでも。 どこまでも。 |
それは人々の補完の始まりだった
人々が失っているもの
喪失した 心
その心の空白を埋める
心と、魂の、
補完が始まる
全てを虚無へと還す
人々の補完が始まった
ゲンドウ | 違う。虚無へ還るわけではない。 全てを始まりへ戻すに過ぎない。 この世界に失われている母へと還るだけだ。 全ての心が一つとなり永遠の安らぎを得る。 ただそれだけの事に過ぎない。 |
ミサト | それが補完計画? |
リツコ | そうよ。 私たちの心には常に空白の部分、喪失した所があるわ。 |
それが心の飢餓を生み出す | |
それが心の不安、恐怖を生み出す | |
リツコ | 人は誰しも心の闇を恐れ、そこから逃げようと、それを無くそうと生き続けているわ。 人である以上、永久に消える事はないのに。 |
ミサト | だからって人の心を一つにまとめ、お互いに補正しあおうと言うわけ? それも他人が勝手に! 余計なお世話だわ。 そんなの、ただの馴れ合いじゃない! |
リツコ | だけど、あたなもそれを望んでいたのよ。 |
ミサト | え? |
CASE 1 | |
葛城ミサトの場合 (PART 1) |
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ミサト | ここは? |
シンジ | ミサトさんの心の中にいる、僕の心ですよ。 |
ミサト | と同時に、シンジ君の中にいる私の心というわけね。 |
シンジ | 僕は僕を見つける為に、いろいろな人と触れ合わなければいけない。 僕の中を見つめなければいけない。 僕の中のミサトさんを見つめなければいけない。 ミサトさんは何を願うの? |
「よいこでいたいの?」 | |
ちびミサト | よい子にならなきゃいけないの |
「どうして?」 | |
ちびミサト | パパがいないから、ママを助けて私はよい子にならなきゃいけないの。 でもママのようにはなりたくない。 パパがいないとき、ママは泣いてばかりだもの。 泣いちゃダメ。 甘えてはダメ。 だからよい子にならなきゃいけないの。 そしてパパに嫌われないようにするの。 |
ミサト | でも父は嫌い。 だからよい子も嫌い。 もう嫌い。もう疲れたわ。 きれいな自分を維持するのに。 きれいな振りを続けている自分に、もう疲れたわ。 私は汚れたいの。 汚れた自分を見てみたかったのよ。 |
リツコ | だから抱かれたの?あの男に。 |
ミサト | 違う。好きだったから、抱かれたのよ。 |
「本当に?」 | |
ちびミサト | 本当に好きだったの? |
ミサト | ええそうよ。あの人はありのままの私を受け入れてくれたわ。優しかったのよ! |
ミサト | やぁ!止めてこんな所シンジ君に見せないで! |
加持 | 今更恥ずかしがる事もないだろう |
ミサト | 恥ずかしいわよ! |
ミサトB | どうして恥ずかしいの? 好きな男の前では平気で、いえ、むしろ喜んでこんな恰好してるくせに。 |
ミサト | いや、止めて! |
ミサトB | この有り様をシンジ君に見せる事が、本当は嬉しいくせに。 |
ミサト | 嘘よ!違う違うわよ。 |
ミサトB | どうかしら。本当は父親の前で見せたいくせに。 |
ミサト | 違う! |
ミサトB | あなたは加持君の寝顔に安らぎを求めていたのよ。 |
ミサト | 違うっ |
ミサトB | 加持君の温もりに安らぎを求めていたのよ。 |
ミサト | 違うっ |
ミサトB | 加持君の腕の中に父親を求めていたのよ。 |
ミサト | 違うわよっ! |
ミサト | そうよ。あの時、加持君の中に自分の父親を見つけたわ。 だから逃げ出したの、彼から。 怖かったの。まるで、お父さんと。 でも本当は嬉しかったからなの。 それが快感だったの。 たまらなく心地良い瞬間だったわ。 だから嫌だった。 だから別れたの。 |
加持 | ま、恋の始まりに理由はないが、終わりには理由があるって事だな。 |
ミサト | 優しいのね、加持君。その優しさで、お願い。 私を汚して。 |
加持 | 今自分が嫌いだからと言って、傷つけるもんじゃない。 それはただ、刹那的な罰を与えて、自分を誤魔化しているだけだ。 止めたほうがいい。 |
ミサト | で、自分を大切にしろって言うんでしょ。 男はみんなそう。 そうして、仕事に、自分の世界に行ってしまうんだわ。 私を置き去りにしたまま。 |
ちびミサト | お父さんと同じなのよ。 |
ミサト | 辛い現実から逃げてばかりなのよ。 辛い現実? 私の事か。 そうよね、こんな私ですもの、仕方ないわね。 |
シンジ | 止めてよ!ミサトさん。 |
ミサト | 時々自分に絶望するわ。イヤんなるわよ。 |
マヤ | フケツ。汚いわ。 |
リツコ | 無様ね。 |
アスカ | いやらしい!汚らわしいわ。 それが大人の付き合いだなんて反吐が出るわ! |
日向 | ご昇進、おめでとうございます。葛城三佐。 |
ミサト | 認められているのは、認められようと演じている自分で、本当の自分ではないのよ。 |
ちびミサト | 本当の自分はいつも泣いているくせに。 |
彼女は果たして、何を望むのか? | |
ミサト | いいえ、私は幸せなの。 |
「私は幸せなの?」 | |
ミサト | 私は幸せなの。 |
「私は幸せなの?」 | |
ミサト | 私は幸せなの! |
「幸せって なに?」 | |
ミサト | 違う!これは幸せなんかじゃない! こんなの、本当の自分じゃない。 そう思い込んでるだけなのっ! |
シンジ | そうしないと、僕らは生きていけないのか。 一緒にいないと怖いんだ。 |
レイ | 不安なのよ。 |
リツコ | 誰が隣で寝ていないと。 |
アスカ |
独りで寝るのか怖い? |
マヤ | やっぱり、独りで寝るのが寂しいんですか? |
加持 | 心の喪失に耐えられないんだよ。 |
日向 | だから誰とでもいいんですね? |
ミサト | 違う! |
ミサトB | いえ、簡単な快楽に溺れたいだけ。 刹那的な逃避で心を癒したいだけ。 そのために男を利用しているだけなのよ。 |
ミサト | 違う違う違ぁう!! |
CASE 2 | |
アスカ | ここは、どこ? |
シンジ | アスカの中にいる僕の心だよ。 |
アスカ | ってことは、シンジの中にいる私の心でもあるわけね。 |
惣流・アスカ・ラングレーの場合 (PART 1) |
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シンジ | アスカは何を願うの? |
アスカ | 私は、独りで生きるの。パパもママも要らない。独りで生きるの。私はもう泣かないの。 |
アスカ | でも、まだ泣いてる。何故泣いてるの? |
義母 | あの子、苦手なんです。 |
父 | なぁんだ?弱気とは医者の君らしくないな。 |
義母 | 医者も人間ですのよ。前にも言いましたけど。 |
父 | しかし、君のような女性が子供相手に。 |
義母 | 妙に大人で、張り詰めた絶対的な拒絶があって、時々怖いんです。 あなた、そう感じた事ありません? |
父 | いぃや。とにかく君はアスカの母親になったんだ。 |
義母 | その前に、私はあなたの妻になったのよ。 |
父 | 同時にだろ? |
義母 | ええ、社会的立場からはそうですわ。 あなたはあの子の父親を辞められないけれど、私はいつでもあの子の母親を辞める事はできますのよ。 |
父 | それはそうだが。 |
アスカ | やめてママ。ママを辞めるのは止めて。 私、ママに好かれるいい子になる。 だから、ママを止めないで。 だから私を見て。 止めてママ。私を殺さないでぇ! |
キョウコ | あなたのパパはママが嫌いになったの。 要らなくなったのよ。 ううん、最初から好きじゃなかったのよ。 最初から要らなかったのよきっと。 だからママと死にましょう。 パパは私たちが要らないもの。 |
アスカ | 私は邪魔なの?要らないの? |
キョウコ | 一緒に死んでちょうだいぃ |
アスカ | いやぁ! 私はママの人形じゃない! 自分で考え、自分で生きるの! |
アスカ | あの時、ママは天井からぶら下がってたの。 その顔はとても嬉しそうに見えたわ。 でも、私はその顔が、とても嫌だったの。 死ぬのは嫌。 自分が消えてしまうのも嫌。 男の子も嫌。 パパも、ママも嫌。 みんなイヤなの。 誰も私の事、守ってくれないの。 一緒に、いてくれないの。 |
彼女は何を望むのか | |
アスカ | だから、独りで生きるの。 でもイヤなの。 辛いの。 独りはイヤ。 独りはイヤ。 ひとりはイヤァ! |
シンジ | 僕を見捨てないで |
ミサト | 私を捨てないで |
アスカ | 私を殺さないで |
シンジ | これは何? |
ミサト | あなたのお父さんが進めていた、人間の補完計画よ。 |
シンジ | これが? |
ミサト | その一部らしいわ。 |
アスカ | 真実は、私たちにもわからないもの。 |
リツコ | ただ、今自分で感じているものが事実でしかないわ。 |
レイ | あなたの中のね。 |
冬月 | そしてその記憶となるものが、君の真実となっていく。 |
リツコ | 時と共に変化して行く真実もあるわ。 |
シンジ | これが事実。すべての結果なのか、これが。 |
アスカ | たくさんある事実。その中の一つよ。 |
ミサト | あなたが望んだ結果なのよ。 |
シンジ | 僕が望んだ? |
レイ | そうよ。破滅を、誰も救われない世界を。 |
シンジ | 違う。誰も救ってくれなかっただけだ! 僕を。 |
リツコ | 誰もあなたを救えないわ。 |
加持 | これは、君が望んだ事だ。 |
アスカ | 破滅を、死を、無への回帰を。あなた自身が望んだのよ。 |
ミサト | これが現実なのよ。 |
シンジ | 現実って何だ。 |
レイ | あなたの世界よ。 |
日向 | 時間と空間と他人と共にある、君自身の世界のことさ。 |
青葉 | 君が、どう受け止め、どう認めるかは、君自身が決める世界だ。 |
マヤ | 今はただ与えられるだけの、あなたの世界なのよ。 |
それが現実 | |
ミサト | どうしようもないあなたの世界よ。 |
シンジ | もうすべて決まりきってる世界だろ! |
リツコ | 違うわ。あなたが決めている世界なのよ。 |
冬月 | 君の心が、そうだと決めている世界なんだ。 |
それが現実 | |
アスカ | 生きようとする意志を、死にたいと思う心を、あなた自身が望む事なのよ。 |
シンジ | この暗闇も、この半端な世界もすべて僕が望んだというのか。 |
レイ | そうよ。 |
加持 | 閉鎖された自分一人が心地いい世界を君は望んだ。 |
日向 | 自分の弱い心を守る為に。 |
青葉 | 自分の、快楽を守る為に。 |
マヤ | これはその結果に過ぎないわ。 |
ミサト | 閉塞された空間ではあなた一人の世界では、人は生きていけないのよ。 |
アスカ | でもあなたは世界を、自分を取り巻く世界の閉塞を願った。 |
リツコ | 嫌いなモノを排除し、より孤独な世界を願った、あなた自身の心。 |
レイ | それが、導き出された小さな心の安らぎの世界。 |
アスカ | この形も、終局の中の一つ。 |
ミサト | あなた自身が導いた、この世の終わりなのよ。 |
そして、補完への道は
つづく
映像についての説明はなしの台詞と字幕(?)だけですがこっそりと。問題があるようであれば即削除します。
間違いのご指摘はメールにてお願いします。