その日、自分が妙に興奮していることをカヲルは自覚していた。
シンジの事ばかりが頭をめぐる。シンジの笑顔とか声とかではなく、今までに見た痴態や妄想ばかりが頭を占めている。
とにかく普通じゃない。それはわかる。
でも原因には心当たりはない。ただほんの少し前から、まるでサカリがついた何とやら。自制できずにこうしてシンジの所を目指す程にはおかしくなっていると思う。
発情期なるものが自分に存在するのか、カヲルは知らない。もしかしたらあるのかもしれない。けれどカプセルから出てまだ1年経つか経たないかでは、そんなことはわからなかった。そういう情報を聞いた覚えもない。
早足というよりはほとんど駆け足でマンションに駆け込み、エレベータを待つのもじれったくて階段を駆け上がった。
部屋のキィは持っている。
今まではそれでもインタホンを押して招き入れられてから入っていたけれど、今日はそんな余裕はなかった。
カードを通して蹴破るほどの勢いでドアを開けると目の前にシンジが立っていた。
出掛けようとしてるらしく、外套を羽織り手に荷物を持っている。
どこへ行く気だと、シンジが聞いたら怒りそうなことを考える。
見たこともないカヲルの勢いにシンジは呆然と立っているだけだった。だから勢いのままカヲルはその腕を取り壁に体を押しつけるとその口に喰らいつく。
「ん、ンっ!」
抗議をしようとしているのだろうがカヲルはお構いなしだ。
開いた口に舌を差し入れるとシンジの口の中を舐めまわし、舌に舌を這わせた。
ほとんど息継ぎをすることさえなく、唇は時々わずかに隙間を作るのみで。
最初は目を顰め、カヲルを押し返そうとしていたシンジの手も、徐々に力を失いカヲルの服に辛うじて引っかかっているような状態だった。
どのくらいそうしていたのか、カヲルがやっとその口を離すとシンジはもう意識も朦朧としていてそのままズルズルと膝を崩した。そのスピードを緩める程度に体を支えながらカヲルも屈んで今度は耳や首に舌を這わす。
廊下に横たえその体に乗りかかり、カヲルは服を脱がし始める。シンジからはもう動くこともなかったが、カヲルは魔法の様に素早くシンジを肌蹴け、自分の服も脱ぎ去った。そして愛撫もそこそこにシンジを穿つ。
「あっああっ」
さすがにキツイのだろう、シンジは苦痛の声をあげる。それでもカヲルは抜くこともせず、じりじりと体を進めていった。
全部収めてやっとカヲルは息を吐く。シンジの顔を見る余裕ができる。
シンジは苦しそうに短い息をしながら目尻に涙を貯めていた。その表情にまた意識は熱く飛んで。
涙を舐め取るために体を屈めると接合が深くなりシンジは声を上げる。もうそれであとは理性も何も残らなかった。
何が何だかわらかないまま津波に攫われる様に流されたシンジは、事が終わってもまだ息も整わなければ体に力も入らなかった。抗議の言葉さえ口にできない。
ずるりとシンジの体から抜け出したカヲルはしばらくそんなシンジの様子を眺めると、おもむろにその体を抱き上げ、寝室へと向かった。
結局そのままベッドの上でも何度か交合を強いられたシンジは、最後はほとんど気絶する様に意識を失った。さすがにその頃になるとカヲルの興奮も治まり始めており、そのままシンジと共に意識をうつらとさせる。
シンジが次に目を覚ましたのは夜も更けた夜中過ぎでカヲルは目覚めていた。
「何時……」
声は擦れて聞き取りにくかったがカヲルにはわかったようで
「3時」
と答える。
それを聞いてシンジは起きあがろうとした。実際には痛みと疲労でそれは叶わなかったが。
「もうお店閉まっちゃったじゃないか! ビデオ返しに行こうと思ってたのに!」
勢いだけは良いものの、擦れて迫力は半減していた。それでもシンジが怒っているのはわかった。
「ビデオくらいいつでもいいじゃないか」
「今日までだったんだよ! あー延滞料金取られる、それもこんなことで」
シーツに顔をうずめる様にしてシンジは文句を言った。
「渚君、責任とって返してきて」
目だけで睨みあげる様にカヲルを見て言う。
「どうして僕が」
「君のせいだろう?! いきなり来て押し倒して! ビデオ返しに行きたいなんて言う暇もなかったじゃないか」
感情的になると体が痛むらしく、呻いてはシーツに臥せるシンジをカヲルはどこかニヤけた顔で眺めていた。
シンジは気付いていないようだが体には何も掛かっておらず、肌はむき出しだ。背中からお尻にかけてのラインは丸見えだったし太腿の辺りは何度も交わった名残があった。
「嫌だね。あの店までは自転車でだって20分は掛かるんだ、今からなんてゴメンだよ」
「君のせいで僕は動けないんだから、それくらいしてくれたっていいだろう?!」
文句を言うもの本当は辛いのだろう、言葉を口にするたびに息が上がる。
「要は延滞料金を払うのが嫌なんだろう?」
カヲルの問いに訝しげな顔をしてシンジは答える。
「そう、だけど」
「それは僕が払うよ。だからもう1回しよう」
言うが早いか手をその丸いお尻に伸ばしてきた。
シンジは逃げようとしたけれど、疲れきり息も苦しいような状態でうまく逃げられるはずもなく、そのままカヲルの指の侵入を許してしまう。
「ばっ、なにいって、あっ」
抵抗空しくシンジは体を返され足を抱えられてしまう。
「も、しぬ……」
シンジの言葉はカヲルの耳に届いたのか……。
がさごそとした気配にふと意識を取り戻すと、シンジは何よりも先に体中の痛みを感じた。呼吸をすることさえ億劫なのはうつ伏せだからだと思ったけれど、指一本動かしたくない。眠っていた方が楽だったと思うが、再びの眠りに入れるような状態ではなかった。体中からの限界信号が脳を刺激している。本当に、どうして死んでいないのかと心の底から思った。
「ああ、気がついた?」
声が上から降ってくる。
殺意が涌くほど元気なカヲルの声に、シンジは思わず怒りで体を奮わせてしまう。首を動かしてカヲルを見ることさえしたくなくてそのままでいると、カヲルはぐるりと回ってシンジの視界に入ってきた。
すでにシャワーを浴びたのだろう、さっぱりとした顔だった。上着を羽織っているし外出するつもりなのだろう。機嫌も良さそうだった。
「じゃあビデオ返してくるから。君はまだ寝てなよ、辛いだろう?」
そう言うとさっさと踵を返す。
”誰のせいだと思ってるんだっ!!!”
言葉は喉に詰まって音にはならなかった。
バタン、がちゃん。
ドアの閉まる音を聞きながらシンジはやっとの思いで口にした。
「ちくしょう……」
結局シンジは丸1日起きあがることはできず、ベッドの中で過ごした。
好きなだけヤったらすっきりしたのか、カヲルは始終機嫌がよく、シンジの文句もどこ吹く風で世話をやいた。
これは結局うやむやにシンジが許す形になったが、半年後にまた同じ事が起きることを、どちらも予想はできなかった。