蒸し暑くて寝苦しい夜なんかは、ふらっと外に出てみたりする。
自販機までだったり、コンビニまで遠出してみたり。
風が気持ちいい時もあれば、出なきゃよかったって思うときもある。
それでも夜の持つ空気は好きだ。
車も通っていないのに歩道を歩いている自分がおかしくて道の真ん中を歩いてみるけど、どこか不安だったりしておもしろい。たぶん、基本的な部分で、昼間から逸脱できないんだと思う。

缶ジュースの落ちるガコンッという音も、気になる日と全然気にならない日がある。缶が立ってたら「明日雨か」って思う。
部屋に持ち帰って飲むとゴミが増えるだけなので、その場でプルを開けて飲む。

夜の静けさは、好きだけど、奇妙だとも思う。

時折。空のどこか遠くから、小さく圧縮された轟音が聞こえることもある。
遠い遠いところで鳴っている雷みたいな。轟きの端っこを辛うじて捕まえたみたいな。
たぶん飛行機の音なんじゃないかなーなんて思うんだけれど、時間帯から考えれば民間機はあり得ない。ヘリっぽくもないからどこかの取材って訳でもないと思う。だとしたら戦闘機、なんだろうか。

戦闘機が飛ぶ夜。

僕らが生まれるずいぶん前に、この国は戦争をしたことがある。事実らしいし、歴史だ。ただ、直接は知らない。
それからずいぶん長い間、戦争はしたことがない。それでも不穏な情勢、というやつはいっぱいあるし、今だって不穏は不穏らしい。
どこかにミサイルが飛んでいったり、先制攻撃なんてバカなことを言ってみたり。他の国との仲だって、クラスの人間関係並みに不穏だ。
それでも「今」が急に終わって、昔のその戦争のような事態が来るなんてことも思えない。建前だとしても平和を唱えている人は多いはずだし、戦争をしたがっている人もいるのかもしれないけれど、嫌がってる人の方が多いと思っている。
それともそれは僕が子供だからで、本当はそうでもないんだろうか。

もし。

あの轟音が、どこかへ向けて飛んでいるミサイルの音だったりしたら。
あの轟音が、どこかの国の戦闘機だったりしたら。

どこかで爆発が起きたりしたら。
今ここに戦争の最初の一発が落ちたりしたら。

こんな風に呑気に外を出歩いている僕は、何が起きたかもわからないうちに吹き飛ばされて終わるのだろうか。

もし。

敵と戦わなきゃいけないような状況に置かれたら、僕はどうするんだろう。

相手が普通に人間だったら例えどの国の人だろうと嫌だと思うけど、もしSFみたいに「宇宙人が攻めてきた!」とかだったら意外と平気で戦えるのかな。
漫画やアニメでは結構みんな平気で戦ってるように見えるから、そんな物なのかもしれない。
わかんないけど。

最後の一口を呷って飲んで缶をカゴに投げ入れる。一瞬の騒音。
もしかしたらどこかで、知らない僕は戦っているのかもしれないけれど。

今の僕がいるのは夜でも明るい自動販売機の前で、夜は静かで、子供が一人で出歩いても怒られることもない。
遠い轟音はただの飛行機で。
部屋に戻ってベッドに入って、眠って起きれば普通の朝で。
学校なんて面倒な所に行かなきゃいけない、普通の場所だ。
それがなくなってしまう可能性は、ゼロじゃないんだろうけれど、ほとんどゼロ。僕の中ではね。

自販機に背を向けて来た道を戻る。
その先には僕の部屋がある。
夜の中、明るい光の灯る、誰もいない部屋が。
エアコン入れると朝がだるいんだけど、今日はちょっと我慢できそうにない。
ぐっすり寝て明日も学校。昼間がやってくる。

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