行為の後の一眠りから目覚めると、シンジが裸のままで床に座り込み、何かを一生懸命に描いている。
真っ白い画用紙にクレヨン。
まるで幼児のような握り方で何枚も描いていた。
体を起こすと、ギシリと寝台が鳴る。
その音にぱっと顔を起こしたシンジは、にこりと笑う。
そして膝立ちで近寄ると、さっきまで一生懸命色を塗りつけていた画用紙を、さも嬉しそうに私に見せた。
「上手に画けたな」
碌に感情のこもっていない声でそういうと、シンジは極上の笑みで頷いた。
そうして書き散らした画用紙とクレヨンを片付けると、ぽすんと寝台に横になり、螺子が切れたように眠ってしまう。
これが、いつもの儀式だった。
父親と寝るという行為を何とか受け入れるために、シンジの心が、脳が考え出した儀式。
すでにどうして息子を組み敷こうなどと思ったのかも、思い出せない。
最初の数回は激しく抵抗したので縛ったり薬を使ったりしたが、そのうちにおとなしく体を開くようになった。
その代わり目覚めると子供に戻って絵を画いている。
なぜ絵なのか、私にはわからない。
ただいつのまにかクレヨンと画用紙をこの部屋に置くようになり、シンジはそれに描き散らす。
そしてそれを誉めることで子供の時間は終わり、次に目覚めた時には記憶はどうも曖昧になっているらしい。
最初は曖昧にしておくことなど許すつもりはなかったのだが、パイロットの喪失はさすがに避けたかった。
ましてやそれが初号機の、ともなれば尚更だ。
絵は少しずつ変化してきている。
幼い絵であることは変わらない。
だが並べると、まるで心理学の教科書になるのではと思うほどに、構図が歪み、人が歪んできている。
そのうちに、絵を画くという行為では代償しきれなくなるのだろう。
ぼんやりとそんなことを思い、だが、止める気はさらさらなかった。
引出しの鍵を開けると、中には書き散らされたシンジの絵が入っている。
別に捨てても構わないはずなのだが、なぜだか捨てられない。
結局一枚残らずここに入れて、時折広げて眺める。
クレヨンは所々力が入りすぎていて、画用紙の上に濃く残り、汚く広がっている。
もし、この絵を誉めずに破り捨てたら、どんな風に壊れるのだろう。
だが破るつもりはない。シンジを呼び出すことを止める気もない。
自分が何を考えているのか、最近は本当にわからなくなっている。
もう少しの辛抱だと言うのに。
ため息をついて絵を片付ける。
仕舞いこみ鍵をかけ、シンジを呼び出すためにフォンを取る。
手袋を脱ごうと見ると、クレヨンの色と匂いがついていた。