「アスカっていつも同じ髪型だね。今度、編み込みとかしてあげよっか?」
ヒカリにそう言われたときに、少しだけ胸が痛んだ気がした。
ああ、まだ気にしてるんだ、私。
できるだけ自然にいつも通りになるように気を付けて、
「ごめん、嬉しいけどいいわ。これエヴァに乗るときにいるし、この方が楽なの」
インターフェイスを指しながらそう答えた。
ヒカリには本当に悪いとは思ったけれど。
「アスカ、エヴァに乗るときに長い髪は邪魔だろう?切らないのかい?アスカならショートも似合うと思うけど」
そう言ったのはドイツにいた頃の研究員。
「別にシンクロ率に影響はないでしょ?髪が長いからパイロットになれないわけでもないし。
私、髪は切りたくないの、絶対」
「そうか?まあ、アスカがいいなら構わないけど、LCLったって、液体だし、邪魔かと思ったんだけどなぁ」
「気にしてくれてありがとう。でもいいの。インターフェイスもこういうのにしてもらったし」
LCLに浸かるのに、まったく気にならないわけじゃない。
でも、髪は切りたくなかった。
縛ったり、纏めたり、他の髪型にする気もなかった。
「アスカは髪、柔らかいわね。パパに似たのね。
ママが結ってあげるから伸ばさない?」
それはもう随分小さな頃に言われた台詞。
忙しくてほとんど家に帰ってこないママが、私を膝に抱いて髪を梳きながら言ってくれたそれは、
今でも私を縛っている。
それから少しずつ切り揃えながら髪を伸ばして、時々帰ってくるママに、しばってとねだった。
ママはあんまり手先が器用じゃなかったみたいで、三つ編みもできなくて、最初はただまとめてゴムで縛る、ひとつ縛りしかできなかったけど、それでも嬉しかった。
お風呂に入っても解こうとしなくて怒られるくらいに。
そのうちに辛うじて今みたいな感じに纏めてくれるようにはなったけれど、それが限界だったみたいで、それ以上の髪型はしてくれなかった。
見かねたのかママの代わりに私たちの世話をしてくれてるおばさんがよく、三つ編みとかにしましょうかと言ってくれたけれど、
私にはママがしてくれるということに意味があって、かわいい髪型には興味がなかったので断った。
いつもいつも同じ髪型だから、クラスメイトからバカにされたこともあるけれど、そんなことに負ける私じゃなかったし、黙らせるのなんて簡単だった。
ママも気にはしてくれてるのか、
「今度は三つ編みができるようにならなきゃね。本当はもっとかわいい頭にしてあげたいんだけど。
ママの髪は堅くてあんまりかわいくできなかったから、娘ができたらおしゃれさせてあげたいって思ってたのよ」
そんなことを言ってくれるから、私はママにしか髪を触らせる気はなかった。
それは、すぐに意味のないコトバになってしまったけれど。
それでも、もう他の髪型をする気はもうなくて、ずっとママがしてくれたままでいた。
ママは、人形のアスカの髪を、縛ったりはしていなかったから。
髪をいじられるのは嫌いじゃない。
毛先をそろえるだけでも、洗ってもらったりブローしてもらうのは気持ちいいと思う。
でも。
私の髪を縛るのは、ママだけだと、
もう子供じゃないし、自分の事は自分でできるし、
加持さんに似合う女になりたいと思っているのに、
それだけはまだ譲れないのだと、ヒカリの言葉に改めて思い知らされた。