パタンと本を閉じてふっと小さく息を吐く。全部読む気はなかったのになんだか止まらなくなった。
シンジは「先に寝るね」と言って今は横で寝息を立てている。読書用で一応絞っているとはいえ灯りのついたとこで寝られるのはすごい、とカヲルは思う。
夜に本を読むのはカヲルの趣味というか癖のようなもので、ベッドの中で読むほうが面白く感じられるような気がしている。読んだからといって人に感想を話したいわけでもないので、いつもはそのまま眠ってしまう。
でも今日はなんとなく。
シンジを起してセックスしたいなと思ってしまった。
ちらっと見れば夜なんだか朝なんだかというくらいの時間で、今起したらたぶんシンジは怒るだろう。
それでも。
甘える声で、鼻にかかる声で、ギリギリの声で僕を呼んでくれないだろうか、なんてことを考えてしまう。
別にそんな本でもなかったのだ。ただ恋の話で。良くあるような、そんなにないような。登場人物はちょっと普通じゃないかもしれないけれど、でも恋はやっぱり恋で。
カヲルがシンジとしている恋とはまた違う恋の話は、カヲルの気持を妙に絡め取った。
この本の様に、とは思わない。
ただ今の自分の気持をシンジに見て欲しいと思う。
まだ自分たちが子供だということは自覚している。
たぶん大人達にはままごとの様に見えるのかもしれない。
それでもカヲルはシンジが好きだったし、シンジもカヲルを好きでいてくれていると思う。
好きだから、欲しい。
単純で、でも本当に手に入れるのはとても難しい事だった。
シンジは逃げた。
それはカヲルが嫌いとかそういう意味ではなかった。それはカヲルも良くわかっていた。でもやっぱり逃げられるのは、背を向けられるのは辛かった。
辛くて、たぶん心の中で泣きながら、伸ばした指先が捕まえた物を、カヲルは離さず。
そうしてやっと、今の様に二人で同じシーツに包まる、という幸せを手に入れた。
本の中の恋は、実ったような実らなかったような。でも不幸ではけしてなくて。
自分たちの恋も、何年か経ったらこんな風に人に語れる「お話」になってしまうのかもしれないけれど。
お互い好きでも、きっと気持は少し変わって、大事なものが変わって、我慢することも増えて。周囲も変わって、嘘だって増えて。大人の恋愛なんてものになってしまうのかもしれない。
永遠なんてないから。
背を向けて眠っているシンジに、起きろ、なんて念を送ってみたけど、起きる気配はない。
カヲルはそっと、そぉっと手を入れて、後ろから抱きこむ様に腕を回す。
胸に温もり。腕に鼓動。目の前には細い首。髪の匂い。
起さないように気をつけて、きゅっと抱きしめる。
軽くその首すじに唇をつけて、目を閉じる。
祈る。
好きだから。好きだから。好きだから。
「ん」
シンジの声がして、カヲルは起したかと少しひやっとした。けれどシンジは起きてはいなかった。
起きなかったけれど、ただ手を。
シンジの胸に回したカヲルの手に、シンジが手を乗せて、少しだけ握ったようにカヲルは感じた。
”脱がしてめちゃくちゃにしたい”
一瞬の衝動をカヲルは抑えて、もう一度目を閉じる。
きっと幸せな夢が見られる。