戦いの混乱の中で、シンジははぐれて一人になった。
武器は持っている。自動小銃を一丁。残弾はもうわずかで予備もない。今敵と出会えば、恐らく終わりだ。
そういう時に限って、それは実現する。
小さな音に振り向くと向こうも少年だった。別に今までだって少年兵がいなかったわけじゃない。なのにすぐには動けなかった。その一瞬でもう十分。
撃たれたと思った瞬間に腕はほとんど反射で構えて引き金を引いた。弾は向こうの体になんてかすりもしないでどこかへ行ったけれど。
シンジが膝から崩れたのを見て相手は逃げたようだった。足音が遠ざかる。
誰もいない。戦闘の音は微かに響いてくる。でもそれだけで。奇妙に静かな空間にシンジは倒れていた。
血をたくさんたくさん流して、血がたくさんたくさん流れて、意識が朦朧としてきてもう死ぬんだなと思った。
誰もいないこんなところで、一人で。
最後の力で何とか体を仰向けにして目を閉じた。
それも仕方がない。自分がバカだったんだし自業自得だ。こんなところにはもう誰も来ない。
看取られずに、死んだことさえももしかしたら知られないままで消える。
寂しいなぁ。
カヲルがシンジを見つけた時、シンジの体は血の海の中だった。
駆け寄って、でも触ることができなくて、膝をついて恐る恐る手を伸ばす。
まだ辛うじて息はあった。あっただけでもうダメだとわかったけれど。
もうだめだ。何も出来ない。もう止まらない。止められない。もうわずか。
カヲルがそっと赤いシンジの体を抱き上げたら、薄く、本当にわずかだけ瞼が動いた。
目が、カヲルを捕らえているような気がした。
「シンジ君」
囁く様に睦言の様に呼びかける。聞こえているだろうか、見えているだろか。もうどうにもできないのならせめてこの手のぬくもりとか声とか姿とかを感じてくれるといい。僕の体を、存在を。
ぽろ、と涙が零れる。もう死んでいく人の目から透明な涙が。
呼吸はほとんどしていなかったから、だから今更塞いだところで変わらない。
カヲルはちろ、とシンジの唇を舐めて、それから唇を合わせるだけのキスをした。
唇を離したとき、少しだけシンジの体が重くなったような気がした。
もう死んだと思ったのに、視界が少し晴れて、天国かなって、本当にあったんだって思ったら、カヲル君が見えた。
カヲル君が見えた。
ああもう神様、これってないよ。
会いたかった。本当に会いたかった。せめて最後は傍にいてくれたらいいなって思った。
思ったけど。
もう死んでもいいやって、仕方ないやって思い切ったのに、カヲル君を見たら、死にたくないって思ってしまう。
死にたくないよ。もっと、もっといっしょにいたい。いっしょにいたいのに。
あえてうれしくて、あえてかなしくて。
かおをみられてうれしい。しにたくない。
もう体は少しも動かなくて、喉は音を作れない。なんにもできないなぁって思った。
そしたら涙が。
零れて髪を濡らしたのがわかった。
視界は徐々にぼやけていって、もうカヲルくんがわからない。
もうなんにもわからない。
ただ薄暗い靄に包まれていって唇が少しだけ濡れたような気がして、今度こそ僕の気持はふぅって消えた。